福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための
『明日のハナコ』上演実行委員会
Executive committee for presentation of drama"Hanako of Tomorrow"
in order to protect the freedom of expression in high school drama activity in Fukui
○Script in English language is released newly! You can read from here.
英語版の脚本「明日のハナコ」公開されました!こちらからお読みください。
〇チーム118(玉村・鈴江出演)の上演の映像をYOU tubeで見られます。大阪ウイングフィールドでの模様
です。2022年1月でした。
○2022年3月18日に顧問会議から示された回答書を公開します。
こちらからお読みください。
○2021年12月12日の小出薫弁護士とともに行った学習会の様子を
文字で再現しました。 こちらからお読みください。
○2021年12月19日の小出裕章さんとともに行った学習会の様子を
文字で再現しました。 こちらからお読みください。
〇オンライン署名、終了しました。
よせていただいた署名は、2022年2月10日、福井県高文連演劇部会長 島田芳秀氏に提出しました。
本当に皆さん、ありがとうございました。
その場のことは、ブログで報告をしております。どうかご一読ください。
福井の高校演劇から表現の自由を奪わないで!
――『明日のハナコ』の排除を撤回し、基本的人権の侵害を止めていただくための運動にご協力ください――
このたび、福井農林高校演劇部の上演にかかわる顧問会議の一連の動きを、重大な表現への抑圧だと考える有志が、
実行委員会を立ち上げ、上演にむけて活動を始めました。実行委員会の求めることは、以下の通りです。
・10月8日の顧問会議で顧問会議で行われた決定3項目を撤回すること。
(ケーブルテレビでの放映の禁止/記録映像閲覧の禁止/脚本集の回収)
・福井農林高校演劇部員たちへ誠実な謝罪をすること。
・今後演劇表現の内容をもとにあらゆる不利益な扱いをしないこと。
・表現の内容に理不尽な介入をしないこと。
・人権侵害を行ったことへの真摯な反省を表明すること。
【ことの経緯】
2021年9月18日~20日、例年どおり県の高校演劇祭(演劇部の県大会)が県民ホールで開かれ、福井農林高校演劇部は「明日のハナコ」という劇を上演しました。創作作品です。
この世界はいったいどうなるのだろう、自分たちはどうなるのだろう、と不安と闘う少女の成長の物語です。
原発の問題、生きる上で大切な誠実の問題、などが盛り込まれていました。
新型コロナウィルスが猛威を振るっていた時期だったので、今年は無観客での上演になりました。
見る人がいないのでは劇とは言えません。
しかし、例年、演劇祭の劇は「福井ケーブルテレビ」が録画・放映してくれることになっていたので、
部員たちは救われる思いだったのです。
ところが、9月20日、その福井ケーブルテレビより、福井県高等学校演劇連盟に対して連絡がありました。。
「福井農林高校の劇の放映について、社内で審議にかかるかもしれないので連盟としての意見を求めたい」
「個人を特定する点、原発という繊細な問題の扱い方、差別用語の使用などについて懸念している」とのこと。
そこでその日に行われた顧問会議の結論は、
「ケーブルテレビ局内の意向を尊重する」。つまりケーブルテレビ側が放送しないと決定したならばそれに従う、
というものです。
その理由としては、
1 この劇には、反原発・個人名・差別用語が含まれている。放送後、それらを取り上げられて、生徒や福井農林高校に非難が寄せられることを憂慮する。学校は教育的に生徒を守らなければならないから。
2 福井農林高校の劇は、表現方法はともかく、上演に問題はないと思う。ただ、不特定多数の人目に触れる放送はいかがなものかと思う。
3 高文連は原電からの支援を受けている。また、ケーブルテレビも原電と関係のある企業がスポンサーになっているかもしれない。これからもケーブルテレビと良好な関係を保ちたい。放映すると影響がでる。
「1」について、まず差別用語は、劇を見てもらえばわかりますが、差別意識を持った取り上げ方はしていません。
個人名についても、図書館にある書籍をそのまま引用したものです。
反原発については、たとえば「原発からの支援を受けている」という意見には、こう反論したいのです。
補助金は、活動の思想的方向や表現内容についてなんら干渉するものではないし、
これまでも干渉した例はないはずです。そういう性質の支援であるからこそ、
公的な組織が(高文連は県の組織です)は公明正大に受け取ることができるのです。
もしも干渉があって、内容を規制しなければならないようなものであれば、
それも意見の一方を否定するようなものであれば、
そのような助成を受け取っている県が裁かれる事態になってしまうし、
即刻県はその助成を返上すべきだというのが、行政上の通念だと思われます。
したがって、「3」の理由がまかりとおれば、
これ以降、福井では原子力発電の危険性を訴えるような劇を作れないことになります。
表現してはいけない分野を生んでしまうことになります。
また、原発に関係する内容次第では社内で審議にかけるなどと、
排除する可能性も示すのがケーブルテレビなら、
むしろ結果的に表現の自由を制約することになるそうしたケーブルテレビの姿勢こそ、問われるべきです。
そう主張して生徒を守るのが教員の仕事じゃないでしょうか。
その後、福井農林高校演劇部生徒たちの反応を聞き取ったのちに、10月8日に再度、顧問会議が開かれ、
あらためて次の三項目が、決定されました。採決もなく、でした。
・福井農林高校の劇だけはケーブルテレビでは放映しない。
・DVDはつくらず、記録映像を閲覧させない。
・脚本集はすべて回収する。
会議ではスクールロイヤー(顧問弁護士)の意見として次のような見解が述べられました。
・劇中における反原発の主張は、表現の自由が保障されるので問題ではない。
・人権尊重の立場から、表現の自由は制限されることがある。
・劇中使用された「かたわ」という差別用語は、使用するだけで駄目である。
顧問会議で具体的にどのような討論があったのか、議事録が公開されないのでわかりませんが、
最後の「差別用語は使用するだけで駄目」という理由が会議の流れを強く決定したとのことでした。
この問題について、県内の別の弁護士に尋ねたところ、以下のように教えてくださいました。
・その単語を使用したからすなわち違法であるという判断は、法律家としてあり得ない。そのような見解を述べる 法律家はいない。まして、スクールロイヤーは良識ある人物が選ばれているのでそのような判断をしたとは考えられない。
・問題となる差別用語だが、もし、この劇が前敦賀市長と同じ立場に立って障碍者を差別したのであれば問題だが、
反原発の立場から批判的にこの言葉を述べている以上、そこに差別意識はなく、よって問題ではない。
・前敦賀市長は公人であるから、特定の個人を非難したという批判も当たらない。当然、遺族からの名誉棄損などということも起こりえない。
・もし万が一クレームがあったら、と考えるのは怖れすぎである。その単語だけを切り取って何者かがクレームをしてくるということはおよそ考えにくい。
つまり、この差別用語の問題は、放映の禁止や脚本の回収をする根拠にはなりえないということです。
上演した生徒たちは、「言われなき批判がくるかもしれない」と聞かされて、不安な面持ちになりました。
けれども、そのあと、それでも放映してほしいと言いました。悔しい、と泣いていました。
自分たちが稽古してきた劇が放送してもらえないのは悔しいと。
私たち実行委員会は、どうしても、その泣いた生徒のことを考えると何かしないではいられないという気持ちになります。
生徒たちは、自分たちの劇がテレビ放映にふさわしくないと思われたことに傷ついています。
生徒たちは、信じてもらえなかったということに傷ついています。
稽古しながら、原発の問題や社会の問題について、自分たちでも調べました。
「こういうことは今まで考えたこともなかった」という部員もいました。それでいろいろ考えるようになった。
それこそ「学習」というのではないでしょうか。
世界に類のない原発集中立地のこの県で、こうした表現の抑圧がまかりとおるようになれば、
日本中の表現者にとって、重大な抑圧への一歩です。表現の自由は、基本的人権の最重要な一つです。
生徒たちの表現への悪罵とも言える三項目の決定は、あらゆる人の基本的人権に対する敵対宣言と言えます。
今これを看過したら、今後も権力者や学校当局などにとって不都合な表現は演劇部活動では抑圧・排除されることになるでしょう。
すでにそういう動きが、他の学校の劇に対しても圧力としてなされています。これはとても危険な動きです。
私たちは、歴史に汚名を残しかねないこの愚行を撤回させたいと思います。
心ある市民の皆さんの力で、撤回させたいと思います。ご協力お願いします。
日本劇作家協会の言論表現委員であった劇作家鈴江俊郎氏(愛媛県在住・元桐朋学園短期大学演劇専攻教授)も、
これは単に高校演劇にとっての問題であるだけでなく、
表現の権利が大きく歪められた、世界にとっての人権問題なのだと考え、実行委員会に参加されました。
そして、「明日のハナコ」を県内演劇部員、演劇部顧問教員、一般市民の方々に実際に鑑賞していただけるような企画を実行しました。
12月12日には福井で、劇を実際にドラマリーディング上演し、その後、弁護士の小出薫氏をお招きして、差別用語とはなにか、今回の劇が差別に当たるのか、をみんなで考えました。
つづいて12月19日には、福井で、再びドラマリーディングを上演したのち、研究者の小出裕章氏をお招きして、原発の問題について、みんなで考えました。
2022年1月8日には愛媛で、15日には大阪で、ドラマリーディング上演と、作者・実行委員との学習会を行いました。同じく原発のある県で、そして福井の原発が事故にあうと住めなくなる京阪神のど真ん中で、皆さんとともに考えるための企画でした。
2月10日、全国、海外からもよせられたオンライン署名、紙の署名あわせて11,849筆の署名を、顧問会議のリーダーである福井県高校演劇連盟委員長と福井県高文連演劇部会長に提出し、署名に対する回答を求めました。
3月18日、ようやくその回答が顧問会議から書面で示されました。大きな前進がありました。要約すると以下の通りです。
○顧問会議は『明日のハナコ』作品そのものが差別的だとは考えていない。
……10月には「差別用語は使用するだけで駄目」としか説明しなかった態度からは大きな前進だと言えます。
○当事者に丁寧にプロセスを報告しなかったこと、生徒たちの思いを聞かなかったことを謝罪する。部員、保護者を
集めてDVD上映会を行う。その場で謝罪する。
○しかし、上演はされたのだから、ケーブルテレビで放映しないことは表現の自由や人権の侵害ではない。
○ケーブルテレビ放映は、部員、保護者全員対象にアンケートをとり、ひとりでも放映を望まない者がいれば協議し
ない。アンケートはDVD上映会の場で、とる。
○今後、上演台本の事前検閲や顧問の相互チェックなどをするかどうかは、時間をかけて話し合う。
……自由を制限する動きもありうるという含みが語られたのです。危険を感じます。
3月末、放映に関してのアンケートでは
「放映してほしい」9名
「どちらでもよい」2名
「判断保留」 1名
「放映を望まない」4名 という結果になり、顧問会議は放映を協議しないと決めました。
しかし、このプロセスと並行して、2月末には、すでに、この上演に関わった当該の現役部員4人は、全員が、直接顧問に対して「放映してほしい」と意思を伝えていたのです。11月には「演劇部員は放映を望んでいない」から、というのが放映しない大きな理由でした。その理由が消えたのにされてしまったこの決定は、表現者本人たちのなまの声を無視したものであると言えないでしょうか。
当局・顧問会議は明確にこの事件を人権侵害事件だったと認めるべきです。そして誠実に自覚をあらたにすべきです。それが再発を防ぐための唯一の道です。
今まで、さまざまなチームで、演劇人、一般の人たちによって「明日のハナコ」は上演されてきました。全国ツアーです。石川。富山。石巻。大阪。尼崎。神奈川。東京。埼玉。静岡。長野。名古屋。沖縄。鳥取。全国26都市、33企画にもなります。そしてそのたび、出演者たちは、さまざまなゲストを招いて観客と語り合う場をつくってきました。「なかったことにされるような劇とは思えない」「見て改めて大人たちの動きに疑問を感じる」と声がたくさんあがりました。東京新聞は「ハナコ、君はまちがっていない」と社説に書いてくれました。週刊金曜日、しんぶん赤旗、各全国紙、web番組、地域の情報誌、言論誌などが特集を組むなどしてこの問題を拡散してくれています。これからも、上演計画がたちあがりつつあります。東京都世田谷区、そしてまた福井県鯖江市、そしてまた東京……など各地で。2025年まで予定があります。そしてほかの事件や土地で人権の問題に取り組むひとたちの集会に招かれ、出張する上演も予定ができつつあります。英語への翻訳もできました。公開されています。国境を超えて言論、上演が行われ、福井県当局の理不尽なふるまいは世界から問われるでしょう。
「明日のハナコ」のこのことは、この国の表現の自由がいかに危ういところにきているかを端的にしめした事件として、全国から注目をあつめています。この国で、あるいは世界のどこかで、表現の自由を得ようともがいている人たちとも連帯して、この実行委員会はうごきを続けていきます。自由を求めるために。
また、全国ツアーでは企画参加団体を募集しています。小さな集まりが大きな意味を持ちます。是非企画して、実行してみてください。
2023年12月。
ハナコ ほら、たくさん家やらビルやらあるだろ。
こっからだとちっちゃなオモチャみたいに見える。あの中にはたくさん人間がつまってんだ。
ちっちゃなオモチャみたいな人間が。ご飯作って、洗濯して、掃除して、働いて。
あの中にオレの親父がつとめていた会社があった。
建設系の会社でさ、親父はそこの係長だった。
ある時、会社は新しく道路を造る仕事を請け負った。何十億ってお金が動く、でっかい仕事だ。
うまくいけば会社は大もうけできる。社員もたくさん給料がもらえる。
でも、その道路は自然保護区のすぐそばを通ることになってた。
それでどうやってもその道路は環境破壊になってしまうことがわかったんだ。
なんとかっていう絶滅危惧種の鳥がそのへんに生息してたらしい。
親父はそれを上に報告した。
そしてもちろん、握りつぶされた。
そりゃそうだ。何たって何十億だからな。
会社の中で、親父に味方するヤツは一人もいなかった。
でも親父はバカだった。
そのレポートを新聞社に持ち込んだ。自然保護団体に持ち込んだ。ネットにアップした。
大騒ぎになった。
道路の計画は中止になった。
何とかって鳥は助かった。
そして親父は会社をクビになった。
親父はバカだと思う。大馬鹿だと思う。
学校の中でこんだけイジメが起きてるんだぜ。
そんでみんなその学校を出てるんだ。
だから会社にイジメがあるのは当たり前だ。
だからこの世界にイジメがあるのは当たり前だ。
だから、オレはときどき、この全部を踏みつぶしたくなるんだ。
(福井農林高校演劇部「明日のハナコ」上演台本より)
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