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◆2022年4月、玉村徹が寄稿した文章を載せた「ゆきのした」はこちらです。

最新情報がはいりましたら順次掲載していきます。

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■寄稿した文章はこちらです。

 福井県高等学校文化連盟演劇部会の『回答』を超えて                               

                          玉村 徹

 3月18日、「演劇部会」からようやく『回答』が出た。驚くべきことに、「明日のハナコ」について演劇部会から文書が出たのはこれが初めてである。これまで彼らは一切文書を出してこなかった。9月にも10月にも顧問会議がありその都度結論を出したはずだがそれは文書の形では残っていない。12月には「脚本と映像の閲覧を認める」という大きな方針が示されたが、それも文字の形では示されていない。だから今回やっと「ようやく」である。

 ただ内容はとんでもない。ある意味では、とても「教員らしい」。一見、立派なことを書いているように見えること、けれども自分たちの中でしか通用しない論理を展開していること、そしてひたすら自己正当化をしているということ。たとえば最初の方では「『明日のハナコ』という作品そのものが差別的だということを一切認識していない」と述べているが、読み進むと「引用の中に『カタワ』という言葉が使われ、見た人に誤解を与える危険性が完全には排除できない」と書かれている。「一切認識していない」のに「危険性が排除できない」とする論理は、常人には理解しがたいが、先生方の頭の中では成立しているらしい。

 福井農林高校の劇だけ脚本や映像の閲覧が認められなかったことについて、生徒たちはずいぶんと苦しんだはずだが、「これまでの要望を受けた対応で、解決済みだと考えている」。確かに12月に突然「対応」して閲覧は可能になった。しかし「自分たちの判断が間違っていた」と反省した様子はない。「今はもう見られるんだからいいだろう」と言っているだけである。

 また、ケーブルテレビでの放映を生徒たちは楽しみにしていたが、これについても「ケーブルテレビで放映するには懸念が払拭できずに、結果的に生徒および保護者の放送して欲しい願いが叶えられなかった。我々は、それが表現の自由を侵害しているとは捉えていない」という回答である。しかし、「懸念が払拭でき」なかったのは演劇部会の先生方である。生徒と保護者の「願い」を叶えなかったのは先生方である。人ごとではない。すべては先生方がしでかしたことである。それを「結果的に」と知らぬふりをして責任逃れするところがなんとも「教員らしい」。

 

小夜子 大人なら言っちゃいけないことがあると思うんだよ。責任持たなきゃならないことがあると思うんだよ。間違うことだってあるよ。それもわかるよ。でもさ、間違っていたら間違っていました、って反省するくらいのことはしてほしいと思うんだよ。こどもだって謝るんだよ。

(『明日のハナコ』台本より)

 これはむしろ「日本人らしい」と言うべきかも知れない。主体的に決断することができない。責任がとれない。上位者のせいであるとか、状況のせいであるとか、仕方なかったんだとか言う。A4版6枚に及ぶこの「回答」の中に、自分たちの非を認めるような部分はほとんどない。

 そしてむしろ攻撃的ですらある。私達が「ネットや新聞紙上で持論を全国的に展開した手法」について謝罪しろと迫っている。しかし私達がそのような「手法」を用いなかったとしたら、どうなっていただろう。そうなれば、先生方が言う「多角的かつ慎重に検討を重ねた結果、我々自身が主体的に出した結論」が変更されることはなく、脚本も映像も封印されたままだったのではないだろうか。間違ったことは間違っていると声を上げるのは、民主国家に暮らしている以上、あたりまえの権利のはずである。

 ここには先生方の恐怖感も見て取れる。教員というのは権威を支えに生きている生き物だから、一度間違いを認めてしまったらおしまいだ、と考えがちである。だから間違いを認めることを極端に嫌がる。権威を失ったときに教育は不可能になってしまうからである(これは間違いを認めようとしない官僚や政治家などにも共通する病かも知れない)。私達は顧問の先生方が下した結論について異を唱えたのであって、先生方自身を攻撃したわけではないのだが、先生方はこの二つを区別することができない。

 

我々は互いに疑心暗鬼に陥り、「来年度の演劇部の円滑な活動に支障はないか」「演劇部の顧問のなり手はいるのか」「来年度の入部希望者はいるのか」と心配するほどの状態に陥っている。(『回答』より) 

 

 私達の活動が来年度の部員減少につながるというのは、なかなか奇抜な論理である。

 日本の教育は上下関係の下で行われている。先生が上で生徒が下。教える人と教えられる人。知識のある人と知識のない人。そういう関係を前提として初めて教育が成立する。

そういう上下関係は先生と生徒の両方に影響を及ぼす。先生には権威を、生徒には権威の反対、つまり無力感を与える。先生は正しくなければならないし、生徒は従順でなければならない。表向き、学校は知識の伝達と技能の習得向上を目標としているが、その過程で生徒たちはこの上下関係に適応することを教え込まれていく。言い換えれば、深刻な無力感を刻み込まれていく。小学一年生には『静かにしなさい』と何度も叫ばなくてはならないが、10数年後の高校三年生に対してはひとにらみするだけで事足りるようになっている。

 そのような『常識』のなかで、先生方が決めた方針に抗議することは、絶対に許されることではない。2月18日の顧問会議のなかで、福井農林高校演劇部の生徒による直筆の手紙が紹介されたそうである。

 

 「当事者の私達の意見を聞いて欲しいし、知って欲しいです」「たった3文字だけで、この作品が差別だと言われてしまうのはどうかと思いました」「事前にテロップで断りを入れたり、ピー音で対処できたはず、普通に放送して欲しいです」「先生方には腹は立ちませんでしたが、先生方の言動は上からの圧力や周りへの忖度があった結果だったのだろうと思っています」「今でも『ハナコ』のことを考えています。忘れたい黒歴史ではなく、高校生活で一番濃い思い出です」

 

しかし、この手紙は黙殺され、『回答』にはまったく触れられていない。

 もちろん、『ネット』は福井農林高校演劇部に対して好意的である。福井農林高校にも苦情の電話がかかってきたことはない。また『ハナコ』という劇の趣旨に賛同して全国あちこちで、さまざまな人の手によって上演が続いている。この活動を「騒ぎ」とみなし、脅威と感じているのは、演劇部会の先生方だけなのである。

 

  福井の高校演劇から生まれ、いろんな事情で放送中止になった作品。とっても好き。丁寧に真摯に作られてて、この作品を作ったみなさんを尊敬する…  今を生きるひとりとして、未来の人を覚えています。高校演劇、凄いなぁ。多くの人に届きますように。

(東京公演に寄せられたTwitterの書き込み)

 

 3月20日に顧問団が福井農林演劇部の部員と保護者にアンケートを行った。16名中、『ハナコ』をケーブルテレビで放映してほしい人が9名、してほしくない人が4名。先生方の思惑に反して、みな自分の思いに従って声を上げるものなのだ。

 「『放映されるとあなたたちが被害を受ける可能性がある。先生は守ってあげられない。』と先生から言われた時に、『守ってあげるってなんですか? 私たちが選んで演じた劇なんだから、それくらい自分達でできます』と言ったそうです。それを聞いた時、先生はオロオロした様子で、何も言わなかったそうです。」(保護者より)

 

大人たちは旧態依然かも知れない。けれども、こんな若者たちこそ、まさしく希望であると私は思う。

■その紹介をする玉村徹の書いたブログの文章はこちらです。

粘り強く  -「ゆきのした」に寄稿しました-

 

福井には、「ゆきのした文化協会」という団体があります。文学者・中野重治の妹中野鈴子さんが縁となって生まれた団体で、これまでに福井空襲のこと、戦後の歩み、原発のこと、福井豪雨のこと・・・さまざまな「福井のこと」について取材し、意見を述べ、本を出版し、劇の公演を行い、その活動は多岐にわたります。

恥ずかしいことに、僕は福井に住んでいながら、まったく無知で無関心でした。教科書と参考書と問題集ばかり見ていたんです。こんなにたくさんの人々がこんなにすぐれた活動をしているなんて、気がつきもしなかったんです。なんていうか、親方日の丸。夜郎自大。公務員って「公僕」なんだから、市民に奉仕する立場のはずなんだけど、いつのまにか自分はカシコくてエラいと錯覚するようになっていたんです。反省(_ _)

雑誌「ゆきのした」も、今回で通巻566号。その息の長さに圧倒されます。

『明日のハナコ』については、早い段階で「玉村さん、記事書きませんか」と連絡をもらいました。あの「墨塗文書」(通称ノリ弁)も、「ゆきのした」の方が「情報公開請求しましょう」といって実現したものです。あれは、「情報」としてはほんとに無意味なほどに真っ黒に塗りつぶされていました。がっかりしました。でも「ゆきのした」の方は言いました。「私達には知る権利があるし、それは堂々と主張していいんだ」「これくらいのことでへこたれていてどうする。こんなことはよくあるんだ。粘り強くやっていくんだよ」

僕はずいぶんたくさんのことを教えてもらったと思います。とりわけ、表現の自由や自分たちの権利を守るためには、なにより勇気が必要だということを。

以下は、寄稿させてもらった僕の原稿です。許可をもらって転載させていただいています。3/18の顧問会議の先生方が出した『回答書』について、僕の考えを述べたものです。

なお、「ゆきのした」には他にも『明日のハナコ』の記事が載っています。他にも、福井の原発についての記事や文化活動についての特集など盛りだくさん。お読みになりたい方は、以下までお問い合わせください(^_^)

 電話・FAX 0776-73-0720

 メールアドレス kfjehssxgfg@rainbow.plala.or.jp

 代表 田島伸浩

 

  

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