福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための
『明日のハナコ』上演実行委員会
Executive committee for presentation of drama"Hanako of Tomorrow"
in order to protect the freedom of expression in high school drama activity in Fukui
◆2022年7月17日に行われました 愛知サマーセミナー2022 での「明日のハナコ」チーム118による上演の動画上映と、玉村徹のお話 のチラシはこちらです。
◆『明日のハナコ』、名古屋をゆく。 (後編)
玉村徹
-それがまあ凄いのよ。7月16日から18日までの3日間で700講座、愛知東邦大学と東邦高校を会場に4万人が参加するっていう巨大学習会よ。こんなの福井にないぞ。やろうったって、たぶんできないぞ。あれだろ、700講座ってことは少なくとも講師が700人はいるんだろ。700人だぞ。そんでそのための教室が必要になるだろ。机椅子プロジェクターに講師のお茶張り紙会場案内板駐車場の手配受付救護コロナ対策、そんでそれに必要なボランティアの人数、考えるだけで脳味噌が煮えるぞ。って聞いてんのか。
「あー聞いてる聞いてる」
-その講座もバラエティに富んでてな、ざっとあげても「学校では教えてくれない村上春樹」「初級簿記講座」「かわいいトートバッグを作ろう」「この漫画のここがすごい!」「今から学ぶ・食品の安全」「世界の平和と飢餓を考える」「老人体験をしてみよう!」「呼吸を深めるヨガ」「知多半島で化石採集」「校則から平和まで!生徒会交流しよう!」「自衛隊の魅力を語る」「沖縄のハンセン病の過去と現在」「ポストコロナの医療」「地球温暖化問題のリアル」「ドローン模擬体験」「『進撃の巨人』とポストモダン文学」「国連で働くためには」・・・どや。僕が高校生だったら速攻行くぞ。絶対行くぞ。こんなん見逃してなるかい。って聞いてんのか。
「あー聞いてる聞いてる」
-そんでな、一番びっくりしたのが、講師だよ。普通どっかの偉い人がしゃべると思うだろ。それが違うんだ。もちろん凄く有名な人もおったよ。先生もいた。一般の市民もいた。でも、かなりの講座の講師が高校生なんだ。高校生が先生して、いろんな話をするんだ。僕は常々思っていたんだけど、教えることは学ぶことなんだよ。まず人に教えるためにはちゃんと勉強しておかなきゃいけない。そして人前でそれを話すときには、それなりの工夫をしなくちゃいけない。ただしゃべっても聴衆は寝ちゃうからね。きちんと話すことを整理してわかりやすく並べ替えて、そのうえで聴衆の気をそらさないテクニックもいる。そういう経験が人を成長させる。だからここで講師をした高校生はぐんと成長したはずで、って聞いてんのかこら。
「あー聞いてる聞いてる」
-あのな、おまえな、
「誰でも先生、誰でも生徒、どこでも学校。教えたいことを教え、学び合いことを学ぶ「夢の学校」。愛知サマーセミナーとは、20年以上続いている地域市民と学校が結びついた市民参加型セミナーです。略して「サマセミ」と呼ばれ、親しまれています。夏休みに入り、本来なら静まりかえっているはずの学校の教室が、朝から賑わっています。ある教室の教壇の上では、ひとりの女子高校生が愛する偉大な作家について熱弁をふるう姿があります。別の教室ではお母さんが得意なエレクトーンのレッスンの真っ最中、ほかにも著名なトップアスリートが彼の人生を語っていたり、小学生相手にカブトムシの飼い方について教えている教室もあります…。先生が1人いて、同じ制服を着た高校生だけがきれいに並んで学んでいる。そんな普段の教室とは違う空気が充満しています。」
-あの、ちょ、ちょっと、
「学ぶことは楽しいこと。主体的な学びを取り戻す場所。教師、生徒、保護者、市民…。そんな枠を超えて「教えたい人」と「学びたい人」が出会う場所。本来、人にとって「新しい知識との出会い=学び」とは楽しいものだったはず。サマーセミナーは、主体的な学びを取り戻すきっかけとしての場なのです。教えるという体験を通して学びの本当の面白さに気付く生徒や、普段の授業とはちがう子どもたちのイキイキとした表情を見て驚く教師、教える楽しさを知り教育への関わり方を見つめ直す市民…。それぞれの立場での新しい発見がまた次の挑戦を生んできました。そのようにして重ねた歴史が、全国でもほかに類を見ない画期的な教育イベントとしての地位を確立してきたのです。とりわけ」
-わ、わかった、わかりました。すみません。
「女子高生なめんなよ?」
-は、はい。
「以後気をつけるように」
-はい、気をつけます。でもおまえなんでそんなに詳しいんだ・・・あー!
「こんなのスマホで調べたらすぐだよ(^_^) それでなに、センセもそこで授業してきたんだって? だいじょぶ? 1年半のブランクは大きかったんじゃない? 足震えなかった?」
-ちょっと震えた。
「やっぱね」
-でも頑張ってきたよ。7月17日1限目「放映されなかった高校生劇『明日のハナコ』」福井県高校演劇祭で、ある高校の劇『明日のハナコ』だけがテレビ放送から外された。原発を巡る過去を辿りつつ、少女二人の成長を描くこの作品が「無かったこと」にされる悔しさ、その背景とは? 元顧問の先生に聞く」って感じで。思い切りぶちかましてきましたよ。つっても、これ全部「老朽原発40年廃炉訴訟市民の会」(老朽原発40年廃炉訴訟市民の会 - ホーム | Facebook)の方に準備してもらって実現したことなんだけど。すっごい頑張ってる方々でさ、福井県民としては頭が下がるばかりで、ほんとにありがとうございました(_ _)。
「少女二人の成長かぁ・・・てへ。なんか恥ずかしいねえ。あたしら成長したのかねえ。てへへ」
-なに赤くなってんだ。気持ち悪いぞ。
「あでもさ、人来たの、そんな地味な講座。人気なかったんじゃない」
-へへ。それがさ、来たんだよ。結構来ちゃったんだよ。へへ。
「なに赤くなってんだよ。気持ち悪い」
-29人。でも僕とかスタッフの人とか入れてだから、実質25人くらいじゃないかな。互いの顔も見えて相互のコミュニケーションも良好にできる人数が20人程度、だったらむしろこれは講座としてはギリギリの数字だと思う。僕は常々思ってたんだけど、なんで学校は30人とか40人とか、無茶な人数を教室に押し込もうとするんだろ。せっかく少子化なんだから、先生や学校の数をそのままにしておけば自動的に理想的な教育環境が実現するのに、生徒の減少に合わせて学校を統廃合したり、教員数を減らしたり・・・アホじゃないかな文〇省。
「はいはい。アホの〇科省の話は置いといて、どうだったの、授業は。みんな寝ちゃったんじゃない。福井農林高校の催眠術師と呼ばれたセンセだから」
-呼ばれてない。身内から火をあげるな。でも確かに、僕の話を聞くだけだと退屈だろうから、工夫はしたよ。最初はYouTubeにアップしてある、僕と鈴江先生が演じた、大阪ウィングフィールドの「明日のハナコ」をみんなに見せてさ。
「ああ、おっさんたちが女子高生を演じたキモいコメディ動画」
-コメディちゃうわ。んで、それだけじゃつまらないから、そのあと「車座演劇」を参加者にやってもらった。30分くらいの短いヤツ。
「なにそれ」
-鈴江俊郎先生が提唱してるやつでな。椅子を丸く並べて座って、その中を舞台にする。参加者は自分の台詞のときは立ちあがってそのエリアに入って演じる。特別にステージを作らなくていいから、どこでもすぐに簡単に劇ができる。鈴江先生は世界のあちこちにこういうちっちゃな劇が生まれることが文化の発展に役立つと考えておられて、
「あーはいはい。それで、なにやったの」
-「明日のハナコ」が封印された、そのいきさつを脚本にしたんだ。ハナコとか小夜子とか顧問の先生とか、参加者にいろんな役をわりふって。こういうのは説明を聞くより、自分がそのドラマに参加したほうがより切実に内容が理解できる。題して『明日のハナコ年代記』。
「えー、いきなり? その場で脚本渡して? ちょっと無茶じゃないそれ」
-大丈夫。経験済み。元教員をなめんな。昔、芥川龍之介の「羅生門」を劇にするっていう授業をしてたんだ。あれ、おしまいのところで「下人」が「老婆」を蹴倒して着物を奪って逃げていくシーンがあるだろ。
「え、ええと、ああ、あったね、あったあった、うん、あった」
-あのなー。「下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒らく屍骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、わずかに五歩を数えるばかりである。下人は、はぎとった檜肌色の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。」
「おー。さすが国語教員のなれの果て」
-やかましい。でもこんなの、文字を読んだらそれだけだろ。そんだけだろ。でも実際に動作を付けてみたらどうなると思う。演技とは言え、老婆役のクラスメートを「蹴倒す」んだよ。そのとき、生徒たちはこの場面の荒々しい暴力性と、「下人」の心の荒廃のすさまじさを実感するんだ。
「うわー」
-でも上手にやろうなんて考えなくていいんだよ。ミス上等。言い間違え大歓迎。演劇は堅苦しいもんじゃない。「明日のハナコ年代記」はコメディ仕立てになってるから、リラックスして、楽しんだらいい。その証拠に、終わったあとはみんないい顔してたよ。
・実際に演じてみて、演劇を消された高校生の気持ちが追体験でき、涙が出てきた。本当にひどいことを平然としている教師、ケーブルテレビの大人、自分も教師なので本当に考えさせられた。
・日本ではあまりないようですが、海外では学校の授業で演劇があることがよくわかる。声に出して、自分ではない誰かのセリフを話すことで、より深く考えさせられるきっかけになった。
・「明日のハナコ年代記」の劇のとうちゃん役をさせて頂き、非常によかった。やはり、自分も参加した方がただ見ているより何倍もよくわかるし、感情もわかる。
「ちゃんとやってんじゃん、61才。えらいぞ」
-なんで上から目線なんだよ。
「でもさ。一つ聞いていいかな」
-なに。
「センセとしてはさ、これからどうしたいわけ。そりゃ活動してくれるのは嬉しいよ。頑張ってるのもわかる。それを否定するつもりはないけど、でもさ。結局、ケーブルテレビは放送してくれないし、先生方は黙っちゃったし、センセがケーブルに頼んで特別に作ってもらった、あたしらの上演を録画したDVD、あれだって先生方が抱えこんじゃってて、センセは見せてももらえない。これってヒドイよね。作者なのに」
-まあな。
「つまりボロ負けじゃん。センセもあたしらもボロ負けじゃん。結局、顧問の先生たちが勝ったんじゃん。絶対間違ってると思うのに、先生たちが勝ったんじゃん。なのに」
-なのに、名古屋まで行って授業してなんになる、ってか?
「センセは、これからどうするつもりなの。こんなに・・・こんなに世界はあたしらを押しつぶしてる。こんなに世界はつまらなくて、息苦しい」
-それは違うぞ。
「え」
-それは違う。世界は変えられる。
「何言ってんだよ、ボロ負けだよ」
-そう見えるかも知れない。でも負けてない。負けてないから戦ってる。そのためなら名古屋だろうが東京だろうがどこだって行く。行って授業する。
・高校生らしい良い演劇で、それほど原発に関心のない離れた都心にすんでいる者に、ありがたさや複雑さ、やっかいさを思い出させる内容だと思います。これからも気にかけていきたいと思います。
・高校生が正しいと思うことを発信して行く勇気は素晴らしい。戦う行程で原発が発端でもっとほかの矛盾の社会現象に出あって行かれる事でしょう。教育現場においても、教えてもらっていない事ももっと沢山ある事に気づかれると思います。世界のトップレベルに住む日本人として、どこに行っても恥ずかしくない人に育って欲しいです。
・社会が暗く悪いほうへ向かっている気がします。高校生の皆様方には朱に染まらず、正しいことは正しいと自分の意思を貫いて戴きたいと思います。
・色々な社会問題を考えると、人類はこの世に存在しない方がいいという結論になるけれど、死んで滅びることは無責任だと思う。都会に生きていたらダメだなあ。第二の人生は都会を離れたいなあと思っている。解決とかはなく社会の負担を少なくするくらしをめざそうと思った。
ほらね。サマセミに来てくれた人の気持ちを動かすことはできたんだよ。もちろんたかが20人だ。でもされど20人だ。僕らは世界をほんの少し動かした。それは無駄なことじゃない。無意味なことじゃない。世界を変えることは、英雄が魔王を倒すのとは違う。ミサイルのボタンを押すのとも違う。今日は20人だった。そしたら明日は40人になる。明後日は60人。そうやって変わっていくんだ。何にも変わらない、何にもならない、そんなふうに見えるかも知れない。でもそうじゃない。だいたいさ。
「なに」
-だいたいさ、世界を変えようなんて大それたことを目指したんだ。そう簡単にあきらめるもんじゃないだろ、女子高生。
「勝負は10万年後?」
-そういうこと(^_^)
――企画実行前に告知のために書いた文章がこちらです。――
◆愛知サマーセミナーに『ハナコ』あらわる!
第33回愛知サマーセミナーで、不肖タマムラ、話をすることになりました。
「放映されなかった高校生劇『明日のハナコ』」
「福井県高校演劇祭で、ある高校の劇「明日のハナコ」だけがテレビ放送から外された。原発を巡る過去を辿りつつ、少女2人の成長を描くこの作品が「無かったこと」にされる悔しさ、その背景とは? 元顧問の先生に聞く」
日時:7月17日(日)1限 (09:30~10:50)
場所 東邦高校・愛知東邦大学(詳しい会場は後日発表されます)
というわけです。久しぶりの授業? いまからタマムラ、緊張してます。
「愛知サマーセミナー」というのは、詳しくはここをみてください。
チラシはこちら。
「誰でも先生、誰でも生徒、どこでも学校。教えたいことを教え、学び合いことを学ぶ「夢の学校」20年以上続いている地域市民と学校が結びついた市民参加型セミナーで、今年の講座数は約700。父母・教師・生徒・NPO法人が協働運営しています。そしてなんと参加は無料です。すごいですね、愛知県。こんな素敵な企画ができて、しかもずっと続いているなんて。こういうの、福井でもやれないかしら。しかもアレですよ、今年の講師の方を見てみると、斉藤幸平さんとか本田由紀さんとか・・・僕が聞きたいわ、その講義。いやいやそれよりオマエ、そんなとこに行っていいのか。タマムラめっさ緊張してます。
そもそもこういう晴れがましいところに出ることになったのは、「名古屋の老朽原発40年廃炉訴訟市民の会」の方のご尽力によるものです。こちらについては、ここをご覧ください。
『ハナコ』の中にも書きましたが、美浜3号機という老朽原発が再稼働されました。地域社会に貢献しているとかCO2がでなくて環境に優しいとか、いろんな理由を付けて動かしました。福島であんなことがあったのに。僕たちはいったいどれだけの犠牲を払ったら、目が覚めるんでしょう。そんなことも、参加者のみなさんと考えていきたいと思っています。ああでも。僕たちの活動がいろんなところにつながっていっているんだなあと思うと、なんというか、この世界も捨てたもんじゃない。あきらめたり無力感に浸ったりするのはまだ早い。ハナコ、オマエはどこまで行くんだ。父ちゃんも頑張るけえね。
なお。
『サマーセミナー』は無料で誰でも参加できますが、なんとなんと、その前日の7月16日に『明日のハナコ』の上演が名古屋で行われます。3月に下北沢で上演してくださった丸尾聡さん率いるオフィスプロジェクトMのみなさんです。ハナコと小夜子がめっさ素敵です。僕と丸尾さんのアフタートークもあります(^_^;) やっぱ劇はナマですぞ。ぜひ予習をかねてご覧ください。
https://stage.corich.jp/stage/152192
玉村徹